契約社員を正社員へ転換したいものの、「自社は対象になるのか」「就業規則はいつ直せばよいのか」「賃金を3%上げれば十分なのか」と迷っていないでしょうか。
キャリアアップ助成金の正社員化コースは、転換後に手続きを始める制度ではありません。正社員転換日の前日までの計画提出や、転換制度を定めた就業規則、転換前後の賃金・勤怠記録などが審査されます。順序を誤ると、実際に正社員へ転換しても支給対象にならない可能性があります。
この記事では、2026年4月8日現在の厚生労働省資料を基に、契約社員を正社員化する中小企業が、対象条件・支給額・受給までの流れ・就業規則と賃金の注意点を判断できるように整理します。
この記事の対象
2026年4月8日以降に正社員転換を行うケースを中心に解説します。2026年4月1日から7日までの取組には別の申請様式が用意されているため、該当する場合は個別に確認してください。
2026年度のキャリアアップ助成金「正社員化コース」とは
正社員化コースは、有期雇用労働者、無期雇用労働者、派遣労働者などを、就業規則等に定めた制度に基づいて正規雇用労働者へ転換・直接雇用した事業主を支援する助成金です。
対象となるのは、単に契約期間をなくした場合ではありません。助成金上の「正規雇用労働者」の要件を満たし、転換後6か月以上雇用して賃金を支払い、転換前より賃金を3%以上増額するなどの条件があります。
キャリアアップ助成金の各コースや2026年度の変更点を先に確認したい方は、2026年度キャリアアップ助成金の制度概要もご覧ください。
まず確認したい対象条件
正社員化コースの要件は多岐にわたります。最初の判断では、次の3つに分けると整理しやすくなります。
1.事業主に関する主な条件
- 雇用保険適用事業所の事業主である
- 事業所ごとにキャリアアップ管理者を置く
- 対象労働者についてキャリアアップ計画を作成し、管轄労働局長へ提出する
- 就業規則等に正社員転換制度を規定し、その制度に基づいて転換する
- 雇用契約書、就業規則、賃金台帳、勤怠記録などを整備し、勤務状況と賃金の計算方法を明らかにできる
- 正社員転換の前後に、解雇など事業主都合の離職に関する要件へ抵触していない
- 労働保険料の未納や、対象となる期間の労働関係法令違反など、共通の不支給要件に該当しない
2.転換する労働者に関する主な条件
- 原則として、正社員とは賃金の額または計算方法が異なる雇用区分の就業規則等を6か月以上適用されている
- 正社員として雇用することを約束して採用した有期雇用労働者ではない
- 転換前3年以内に、同じ事業主または密接な関係の事業主で正規雇用されていた者などに該当しない
- 事業主または取締役の3親等以内の親族ではない
- 支給申請日に正社員として在籍し、正社員転換後の雇用区分が続いている
- 定年制がある場合、転換日から定年まで1年以上ある
上記は代表的な条件です。派遣労働者の直接雇用、人材開発支援助成金の訓練修了者、新規学卒者などには個別の取扱いがあります。
3.転換後の「正社員」に関する条件
転換後は、同じ事業所の正規雇用労働者に適用される就業規則が適用されていなければなりません。さらに、転換時点で「賞与または退職金の制度」と「昇給」の両方が適用されることが必要です。
名称を「正社員」に変えただけで、契約社員と賃金条件が実質的に変わらない場合や、正社員用の賞与・退職金・昇給制度が適用されていない場合は、助成金上の正社員と認められない可能性があります。
中小企業はいくら受給できる?2026年度の支給額
中小企業の1人当たり支給額は、転換前の雇用形態と「重点支援対象者」に該当するかで変わります。
| 転換前の雇用形態 | 対象者区分 | 中小企業の支給額 | 支給期 |
|---|---|---|---|
| 有期雇用 | 重点支援対象者 | 80万円 | 40万円×2期 |
| 有期雇用 | 上記以外 | 40万円 | 40万円×1期 |
| 無期雇用 | 重点支援対象者 | 40万円 | 20万円×2期 |
| 無期雇用 | 上記以外 | 20万円 | 20万円×1期 |
重点支援対象者には、主に次の方が含まれます。
- 雇入れから3年以上の有期雇用労働者
- 雇入れから3年未満で、過去5年間の正規雇用期間が合計1年以下、かつ直近1年間に正規雇用されていない有期雇用労働者
- 派遣先で正社員として直接雇用される派遣労働者
- 母子家庭の母、父子家庭の父など
- 人材開発支援助成金の特定の訓練修了者
有期雇用の通算期間が5年を超える方は、助成金上は無期雇用労働者として扱われます。そのため、長く勤務している契約社員を転換する場合は、転換前に雇用期間を通算して確認する必要があります。
1年度・1事業所当たりの支給申請上限は20人です。同じ対象者の第2期申請は、この20人の数には含まれません。
2026年度は情報公表による加算も新設
2026年4月8日以降の取組では、正社員転換制度や転換実績など所定の情報を自社サイトまたは「しょくばらぼ」に公表した場合、1事業所1回に限り、中小企業は20万円の加算対象となる可能性があります。
ほかにも、正社員転換制度を新たに規定した場合は中小企業20万円、多様な正社員制度を新たに規定した場合は中小企業40万円の加算があります。それぞれ要件と「1事業所1回」の制限があるため、制度を作る前に適用可能性を確認しましょう。
正社員転換から受給までの流れ
- 対象者と社内制度を確認する
雇用期間、過去の正規雇用歴、親族関係、定年までの期間、就業規則、雇用契約、賃金制度を確認します。 - キャリアアップ計画を作成・提出する
労働組合等の意見を聴いて作成し、正社員転換日の前日までに管轄労働局へ提出します。電子申請、郵送、窓口提出が可能です。 - 就業規則等を整備し、周知する
転換制度がなければ、手続、客観的な要件、転換時期を明記します。正社員用の賃金・賞与または退職金・昇給制度も確認します。 - 規定に基づいて正社員転換する
転換日、労働条件、適用する就業規則が分かる雇用契約書または労働条件通知書を交付します。 - 転換後6か月以上雇用し、6か月分の賃金を支払う
転換前6か月に比べ、対象となる賃金を3%以上増額します。第2期がある重点支援対象者は、さらに6か月雇用し、第1期から合理的な理由なく賃金を引き下げないことが必要です。 - 期限内に支給申請する
第1期は、転換後6か月分の賃金を支払った日の翌日から2か月以内です。第2期も、その次の6か月分の賃金支払日の翌日から2か月以内に申請します。 - 労働局の審査・支給決定を待つ
書類確認や追加資料の提出依頼が行われることがあります。審査を経て支給または不支給が決定されます。
最も重要なのは「転換してから相談」では遅いことです。
キャリアアップ計画の提出期限、転換規定の施行日、雇用契約書の切替日が前後すると、後から書類を整えても要件を満たせない場合があります。転換予定日から逆算して準備してください。
就業規則で確認すべき注意点
転換制度には手続・要件・実施時期を明記する
正社員転換制度は、「会社が認めた者を正社員とする」といった抽象的な条文だけでは足りない可能性があります。面接や試験などの手続、勤続年数・人事評価・所属長推薦など客観的に確認できる要件、毎年4月・随時などの転換時期を明示し、労働者へ周知します。
また、規定に書かれた手続を実際にも行う必要があります。就業規則では面接をすると定めているのに面接記録がない、転換日が規定上の実施時期と違う、といった不一致を残さないようにしましょう。
常時10人未満でも就業規則等の整備が必要
労働基準法上、常時10人未満の事業所には就業規則の作成義務がありません。しかし、この助成金で就業規則等への規定が必要な取組を行う場合は、事業所の規模にかかわらず、必要な規定を整備して労働者へ明示する必要があります。
2026年度版Q&Aでは、10人未満の事業所が就業規則を作成する場合、取組日までに事業所内で周知したうえで、支給申請前に所轄労働基準監督署へ届け出るか、周知について事業主と労働者代表の氏名等を記載した所定の申立書を添付するとされています。
就業規則と雇用契約書を一致させる
就業規則で定めた所定労働時間、休日、賃金形態、手当、試用期間と、実際に交付する雇用契約書・労働条件通知書を照合します。正社員転換後に試用期間を設ける場合は、助成金上の転換日の取扱いが変わるため、安易に従来の契約書を流用しない方が安全です。
賃金3%増額と勤怠管理の注意点
3%は原則として1時間当たりの対象賃金で比較する
転換後6か月間の賃金は、転換前6か月間より3%以上増額する必要があります。原則は所定労働時間1時間当たりの賃金で比較し、転換前後で所定労働時間が変わらず、どちらも月給の場合は6か月間の賃金総額で比較します。
比較対象は基本給と、要件を満たす定額の諸手当です。実費弁償的な手当や毎月変動する手当などは含められず、転換後に含める定額手当は、その決定・計算方法や支給要件が就業規則または労働協約に記載されている必要があります。残業の増加によって3%を満たすという考え方はできません。
固定残業代の総額または対象時間を減らす場合は、固定残業代を含む比較と含まない比較の両方で3%要件を満たす必要があります。手当の組替えで見かけ上だけ賃金を上げる設計は避けてください。
数円単位でも、勤怠・計算式・支給額を説明できる状態にする
当事務所の申請支援では、匿名化した実例として、実働時間から計算した賃金と実際の支給額に数円単位の差があり、確認を求められたケースがあります。数円の差があれば一律に不支給になる、あるいはすべての労働局が同じ確認をする、という意味ではありません。
ただし、助成金の審査では、就業規則、雇用契約書、出勤簿・タイムカード、賃金台帳、実際の振込額が相互に確認されます。端数処理、遅刻・早退控除、欠勤控除、残業単価、固定残業代、各種手当の計算方法まで、会社として説明できる状態にしておくことが重要です。
経営者向け・正社員転換前チェックリスト
- 転換予定者は、正社員と異なる賃金区分で原則6か月以上雇用されている
- 正社員採用を前提とした形式的な有期契約ではない
- 有期雇用期間が通算5年を超えていないか確認した
- 重点支援対象者に該当するか、過去の正規雇用歴を含めて確認した
- キャリアアップ計画を転換日の前日までに提出できる
- 就業規則に転換の手続・要件・実施時期が明記されている
- 就業規則を労働者へ周知し、必要な届出または申立ての準備ができている
- 転換後に賞与または退職金の制度と昇給が適用される
- 雇用契約書と就業規則の労働時間、休日、賃金、手当が一致している
- 転換前後の対象賃金が3%以上増えることを公式の確認ツール等で試算した
- 勤怠から給与を再計算し、賃金台帳・実支給額との不明な差がない
- 6か月分の賃金支払日の翌日から2か月以内という申請期限を管理できる
1つでも判断できない項目がある場合は、転換日を決める前に確認することをおすすめします。
よくある質問
入社から6か月ちょうどで正社員にしなければいけませんか?
「6か月以上」の適用・雇用要件を満たしていれば、必ず6か月ちょうどに転換する必要はありません。ただし、重点支援対象者の区分や、有期雇用が通算5年を超えた場合の取扱いが支給額に影響します。転換時期を先延ばしにする前に個別確認が必要です。
従業員が9人なので就業規則は不要ですか?
この助成金で正社員化コースを利用するには、10人未満の事業所でも転換制度等を定めた就業規則または労働協約が必要です。取組日までの周知に加え、支給申請前の監督署への届出または所定の申立書添付が必要です。
転換後6か月が経過すれば、いつでも申請できますか?
いつでも申請できるわけではありません。原則として、転換後6か月分の賃金を支払った日の翌日から2か月以内です。時間外手当を翌月に支払う場合などは起算日が変わることがあるため、給与の締日・支払日・手当の支払月を確認してください。
要件を満たせば必ず80万円受給できますか?
80万円は中小企業が有期雇用の重点支援対象者を正社員転換し、2期とも要件を満たした場合の額です。対象区分や転換前の雇用形態で金額が変わり、最終的には労働局の審査を経て支給が決定されます。
転換前の制度設計と書類整合性が受給の分かれ目
キャリアアップ助成金の正社員化コースでは、「正社員にした」という結果だけでなく、転換前の計画、就業規則に基づく手続、転換後の処遇改善、勤怠と賃金支払いの実態まで確認されます。
DHorse社会保険労務士事務所は、これまで500件を超える助成金申請支援に携わってきました。対象者の判定、キャリアアップ計画、就業規則、賃金3%増額の試算、申請期限まで一連の確認が必要な方へ、助成金の無料診断・無料相談を行っています。
制度情報は2026年7月28日に確認しました。参照:厚生労働省「キャリアアップ助成金」「キャリアアップ助成金のご案内(令和8年度版)」「キャリアアップ助成金Q&A(令和8年度版)」。助成金制度は年度途中に変更される場合があります。実際の取組前に、最新資料と管轄労働局・ハローワークで個別要件をご確認ください。







